Photo: Joan Marcus

THE SCARLET PIMPERNEL
『スカーレット・ピンパーネル(紅はこべ)』
作詞・作曲/ナン・ニグトン、フランク・ワイルドホーン
演出/ロバート・ロングボトム

「スカーレット・ピンパーネル」の評論を書くのは今回で3度目になる。 この作品は最初97年に開幕したが良い作品とは言えず、 去年11月に一旦クローズして演出、脚本、 美術、キャストなどを替え再オープンし見違えるほど良い作品に生まれ変わった(詳しくは「スカーレットピンパーネル」ヴァージョン2の評論を参考)。 そ して今年5月には上演劇場の移動と更なる手直しのために再びクローズし、今月二ール・サイモン劇場で3度目の開幕を迎えた。

原作はバロネス・オクシーの小説「紅はこべ」。 1794年パリ、ロビスピエール率いるジャコバン派が独裁政権を確立し、反革命分子の貴族らを容赦なくギロチンで処刑し、いわゆる "恐怖政治" を実行していた。 一方イギリスでは英国貴族のパーシーとフランス人の歌姫マルガリートが結婚式を挙げる。 しかしパーシーはマルガリートがフランス警察シュヴィランのスパイであることを知り、彼女と距離を置きはじめる。 一方でパーシーは仲間と共にスカーレット・ピンパーネルと名乗りフランス革命でギロチン の犠牲となる人々を救うために戦い始める。 シュヴィランはスカーレット・ピンパーネルの正体を血眼になり追い、パーシーがスカーレット・ピンパーネルに関係していると気づきはじめる。 シュヴィランはマルガリートの弟アルマンドを逮捕し、彼を助けるためにスカーレット・ピンパーネルを誘き出すようマルガリートを脅す。 スカーレット・ピンパーネルの正体が実は自分の夫であることを知らないマルガリート。 そして彼女もまたシュヴィランに捕らえられる。 彼女の自分への愛を知ったパーシーはマルガリートとアルマンドを断頭台から救い、逆に捕らえたシュヴィランをスカーレット・ピンパーネルだとしてフランス当局に引き渡し、ハッピーエンドをむかえる。

キャストは主役を含めほとんどが入れ替わった。  パーシー役はオリジナルのダグラス・シルズに代わりロン・ボマーが演じた。 マルガリート役は去年「パレード」でト二ー賞主演女優賞にノミネートされたキャロリー・カメーロ、またシュヴィラン役はマーク・クディッシュにそれぞれ交代した。

前回ほど大幅な脚本や音楽、演出の手直しはないが、上演コスト削減のためキャスト数は今までより少なくなり、また装置も小型でシンプルなものに変更された。 

結論から言えば、97年に初演された際のヴァージョン1よりは脚本、演出などはるかに良い。 しかしこれらは全て去年最オープンしたヴァージョン2の時に変更されたもので、今回のヴァージョン3はヴァージョン2で完成した作品を無理に壊してしまったといった印象を受けた。 

前回までは地下牢や船などの重要な場面で使用され、装置の中でも特に目を引いたセリはなくなった。 他にもパリのビストロなどの大型の装置は全てカットされた。 スペクタクル性が必ずしも必要な作品とは思わないが、やはり前回までの舞台と比べると、セリや大型セットによる装置の高低の面白さがなくなりヴィジュアル面での迫力不足を感じる。 また今回キャストの人数が大幅に減り、パリの群集など大勢のアンサンブルを必要とするシーンなどでは人数の少なさが明らかにわかる

演出、振り付けは前回に引き続きロバート・ロングボトムが担当。 前回と比べて大幅な変更はないが、キャスト数や美術面でのコスト削減というプロデューサー側からの制約がある中で、なんとか形の整った作品に纏め上げた彼の腕はたいしたものだ。 

主役を演じる3人は健闘した。 パーシー役のロン・ボマーは前回までのユーモア溢れたダグラス・シルズとは違った硬い役作りだ。 キャロリー・カメーロは演技力よりも歌唱力の方が優れていた。 シュヴィラン役のマーク・クディッシュは前回この役を演じたレックス・スミスの説得力のある悪役振りにはかなわないが、安定した歌唱力と演技力でなかなかの好演だ。

装置による大スペクタクルがなくなり、よりストーリー性が強調されるのかと思ったのだが、皮肉にも物語の矛盾や荒さが表面に出てしまった。 このミュージカルには美術やキャスト数の豪華さがいかに必要か実感した。 ブロードウェイ・ミュージカルというよりは、地方巡業のミュージカルといった印象を受けた。 今後予定されているこのミュージカルのツアー公演は間違いなく今回観劇したヴァージョン3と同じ装置、演出で行われるであろう。 ツアー・カンパニーとして観れば見事な完成度であるが、ブロードウェイで上演する際はやはり、前回のままの方が良かったのではないかと思う。 

 

「スカーレットピンパーネル」ヴァージョン2の評論

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