KISS ME KATE
「キス・ミー・ケイト」作詞・作曲/コール・ポーター
演出/マイケル・ブレイクモア今年は例年に比べてリバイバル・ミュージカルの開幕が非常に少ない。 10月も終わりに近づきやっと今シーズン最初のリバイバル作品、「キス・ミー・ケイト」がプレビューを開始した。 この作品はトニー賞にミュージカル部門が新設された1948年に初演され、最初の最優秀作品賞に輝いた歴史的作品でもある(それ以前のトニー賞はストレート・プレイに限定されていた)。
このミュージカルでは、作品そのものの物語と、劇中上演されるミュージカル「じゃじゃ馬ならし」の物語とが同時に進行する。 そして終いには、両方の区別がつかなくなるというのが面白いところだ。
1948年のバルティモアでシェイクスピア作「じゃじゃ馬ならし」のミュージカルが開幕しようとしていた。 この劇中劇で主役を演じる二人フレッドとリリーは元夫婦。 一度は別れたものの、二人ともお互いに未練を感じている。 しかし一方でフレッドは出演者の一人ルイーズに心をよせ、リリーも軍隊の将軍ハリソンという恋人がいた。 開幕前にフレッドはルイーズに手紙と花束を贈るが、間違ってそれがリリーのもとに届いてしまう。 フレッドはまだ自分を愛していたと喜ぶリリー。
「じゃじゃ馬ならし」の舞台が開演し劇中リリーはじゃじゃ馬娘のキャサリン、フレッドはその夫ぺトルシオを演じる。 しかし上演中、開演前にフレッドから送られた花束が実は自分にではないと知ったリリーが激怒、ぺトルシオを演じるフレッドを舞台上で叱咤しこまらせ、彼女自身本当のじゃじゃ馬娘になってしまう。 舞台は収集がつかなくなり、その上リリーは役を降りると言い出す。 公演が成功しないと借金の返済が出来ないとフレッドが偽りを言い、なんとか彼女を思いとどまらせ舞台は続行。
そこへリリーの愛人ハリソン将軍が彼女を連れに劇場に来る。 愛しているから行かないでほしいと、フレッド。 しかしリリーは聞き入れずハリソン将軍と共に劇場を去っていく。 再び劇中劇の「じゃじゃ馬ならし」にもどる。 フィナーレでフレッド扮するぺトルシオと結ばれるはずのキャサリンがいない。 キャサリン(リリー)はもう来ないとぺトルシオ。 そこに衣装を着てキャサリンに扮したリリーが戻ってくる。 そして舞台上で二人は愛を誓い合い、ハッピーエンドを迎える。
今回、フレッド(=ぺトルシオ)を演じたのは、「ラグタイム」で一躍スターになったブライアン・ストーク・ミッチェル。 相手役のリリー(=キャサリン)には同じく「ラグタイム」に出演したマリン・メージー。 どちらの役も歌唱力、コメディー・センス、そしてシェイクスピア作品を演じられる演技力が必要な難役である。
ブライアン・ストーク・ミッチェルは力強い歌声でコール・ポーターによる名曲を熱唱。 彼のコメディー・センスは前作「ドレミ」で証明済みだ。 堂々とした台詞の喋り方などは、初演でこの役を演じたハワード・キールよりも、1953年に公開された映画版でこの役を演じたアルフレッド・ドゥレークにそっくりだ。
マリン・メージーは「パッション」のクララや「ラグタイム」のマザー役など、どちらかといえば高貴な女性のイメージが強いが、今回は今までとは違ったじゃじゃ馬娘を演じた。 多少ぎこちなくは感じるが、コメディー・センスは抜群でこれからのロングラン公演でより良くなっていくことは間違いないだろう。 またソロ・ナンバー "So in Love" では彼女の美声が生かされた。
2幕で "Always True to You" をコミカルに、そしてセクシーに歌い上げたルイーズ役のエミース・パンジャーも印象に残った。
そしてキャサリン・マーシャルによる振り付けが見応えがある。 少しフォッシー風の切れの良い振り付けがあり、アイディアが沢山詰まっていて非常に楽しめる。 この作品の上演時間は3時間と長めだ。 しかしダンスシーンが盛り上がり、舞台全体に締まりが出てきて上演時間の長さを感じさせない。 ただ、まだアンサンブルが振り付けに慣れておらず、ばらつきが少々気になった。
演出は「シティー・オブ・エンジェルズ」などを手掛けたマイケル・ブレークモア。 開演前から幕が開いており、そこにある舞台裏の装置を裏方に扮したキャストが忙しく歩き回っている。 そしてオープニング・ナンバー "Another Opening" が静かに始まる。 面白いのは、オーヴァーチュアが最初に演奏されるのではなく、このオープニング・ナンバーの途中で演奏された事だ。 これによって観客は自然に物語の中に入っていくことが出来る。
台本もさ程変更はなくオリジナルに忠実だったのが良かった。 先シーズン再演された「アニーよ銃をとれ」ではオリジナルの脚本を無理に書き換え、より良くしているつもりが逆に作品本来の面白さを失わせる原因になった。
今回の脚本の唯一の変更点がリリーの恋人、ハリソン将軍のキャラクターを膨らませたことだ。 初演の際には挿入されず、映画版で使用された曲 "From This Moment On" が今回の上演でハリソン将軍が歌うことになった。 それ以外の変更点は挙げられない。
装置はロビン・ワグナー(「クレージー・フォー・ユー」など)が担当。 劇中劇の「じゃじゃ馬ならし」が上演される場面では、パステル調のメルヘンな装置。 それ以外の楽屋や舞台裏でのシーンは現実的な装置デザイン。 その二つの全く違った印象をもつ装置のコントラストが非常に楽しめた。
プレービュー公演が始まって間もなくの観劇であったが、この時点ですでに高い完成度を持っていたのは作品そのものが良いからであろうか? 所々緩んだねじを締め、キャストが役に慣れてくれば、最高のエンターテイメント作品になるであろう。