KAT AND THE KINGS
キャット・アンド・ザ・キングズ
Cort Theatre

作詞・作曲/デービット・クレーマー、タリエップ・ピーターソン
脚本・演出/デービット・クレーマー

夏休みを利用し日本に帰国していたためしばらくブロードウェイから遠ざかっていた。 帰国中、今シーズン最初の新作ミュージカル「キャット・アンド・ザ・キングズ」が開幕しており、時差もまだ直らないまま急ぎ劇場に足を運んだ。 最近は初日前のプレビュー中に観劇するといった贅沢な癖をつけてしまっていたが、今回久々に、初日を終え各メディアからの評価もでて一息ついた舞台を観劇した。 出演者から裏方まで緊張した初日前の舞台も見応えあるが、今回のようなリラックスした雰囲気の舞台もまた非常に楽しめた。

「キャット・アンド・ザ・キングズ」は95年に南アフリカで初演されたミュージカル。 去年はロンドンで開幕し、ローレンス・オリビエ賞では最優秀作品賞や主演男優賞を受賞した。

1957年南アフリカのケープタウン、アメリカン・ミュージックに憧れたキャット・ダイアモンドとその仲間達がザ・ドリフターズなどを手本にカヴァナ・キングズというグループを結成する。 彼らの夢や挫折などが靴磨きになった現在のキャットの視点から描かれる。 舞台は現在のキャットが過去を振り返りカヴァナ・キングズを結成した経緯を語りだすところから始まる。

出演者はカヴァナ・キングズに扮する5名と、現代のキャットの総勢6名。 余談になるが、年老いたグループの一人がナレーターとして舞台を進行したり、政治的理由などからグループ解散を迫られたり、作品がドキュメンタリータッチで描かれている点、又キャスト数まで先シーズン上演された「バンド・イン・ベルリン」と共通している。 因みに「バンド・イン・ベルリン」は第二次大戦前のベルリンで活躍したグループ、コメディアン・ハーモニストのミュージカル。 決定的な違いは「バンド・イン・ベルリン」のコメディアン・ハーモニストは実在したグループだが、「キャット・アンド・ザ・キングズ」の場合、グループ名や人名などすべてフィクションだという事。 また「バンド・イン・ベルリン」とは違い、「キャット・アンド・ザ・キングズ」の劇中使われる音楽は全てタリエップ・ピーターソンがこの作品のために作曲したオリジナルである。 両者を比較し、「キャット・アンド・ザ・キングズ」の方が全ての面において優れており、完成度の高い作品だと感じた。

アパルトヘイトで苦しむ黒人や、白人でも黒人でもない混血の苦労、また全ての人種の平等への願いが、何度も訴えられた。 グループでヴォーカルを勤めるルーシーは白人のプロデューサーと恋におちるが、異なる人種間での結婚は認められていなかった為、グループを去りカナダに移住する。 最終的にこのような人種的理由から、グループは解散せざるをえなくなる。 

劇中カヴァナ・キングズのコンサートのシーンが何度もある。 カラフルな衣装やアイディアの詰まった小道具を多用したコンサートのステージングはコミカルで非常に楽しめたし、またここでも人種平等へのメッセージが強く訴えられた。 しかしこれらコンサートの要素が舞台が進むにつれ強くなり、グループひとりひとりの人間ドラマが一幕後半以降余り語られなくなり、舞台を通してのまとまりのなさが気になった。 その結果、一見ストーリーやテーマ性のないショーのように見えてしまうのが残念だ。

タリエップ・ピーターソンによる音楽はジャズ、ロック、デゥーワップを使い幅広く、聞き応えのあるナンバーが揃っている。 また各場面ごとの曲の雰囲気がそれぞれ違い、それがまた楽しめる。   

そして何よりもこの作品の素晴らしさは6人の出演者の力強いパフォーマンスによるものが大きい。 大掛かりな舞台ではないため、上演中のコート・シアターはこの作品には少々大きすぎるように思えるが、キャストのエネルギーが劇場の大きさを全く感じさせない。 また観客へのサービスも徹底しており、コンサートの場面で出演者が客席に下りてきて手拍子の音頭を取ったり、カーテンコールの後出演者が舞台を駆け下り、劇場ロビーにて劇場を去る観客と握手を交わすといった劇団四季のファミリー・ミュージカルにも似た演出は微笑ましく思えた。 所々で問題はあるが非常に楽しめるミュージカルである。 

ブロードウェイでは先シーズンあまり良い作品に恵まれなかったが、今年は最初から力強い作品が幕を開け今後が楽しみになってきた。 

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