DO RE MI
「ド
ミ」
City Center

作曲/ジュールスタイン
演出/ジョン
ランドー

 過去のミュージカルの佳作を毎年数本コンサート形式で上演するアンコール(Encores!)。 衣装は最小限、セットはほとんどなく、オーケストラ・ピットが舞台中央に配置され出演者は台本を持っての上演となる。 最近来日公演で好評を博したリバイバルの「シカゴ」も元はこのアンコールで上演され好評のためブロードウェイで開幕し大ヒットとなった。 「シカゴ」の舞台でもオーケストラ・ピットが舞台中央に配置され、衣装、装置がシンプルであるが、これは元々この作品がこのアンコールシリーズで始まったから。 ブロードウェイで上演されるにあたって、唯一大幅に変えられたのは役者全員が台本を持たず、ワイヤレス・マイクをつけて演じているという事。 あとはアンコールで上演された際のままである。 「シカゴ」を観た方ならこのアンコール・シリーズの上演形式が想像つくのではないだろうか? 

 物語は1960年代、音楽業界(ジュークボックス業界)を舞台にしたコメディー。 下級マフィアのヒューベルトが音楽業界に興味をもち、たまたま出会った歌の上手いウェイトレスのティルダを歌手デビューさせ有名にする。 しかし彼女は競争相手となる名音楽プロデューサーのジョン・ヘンリーと恋に落ちてしまう・・・。 最後は勿論ハッピーエンド。

 この「ド・レ・ミ」がブロードウェイで開幕した1965年には名作「バイ・バイ・バーディー」も開幕し、トニー賞も人気も後者に全部持っていかれてしまい、ロングランしなかった。 今回初めて観劇し、「バイ・バイ・バーディー」に引けを取らぬ面白い作品だと感じた。 タイミングが全てのブロードウェイだが、もしこの作品が違った時に開幕していたらきっとヒットしたであろう。  

 アンコールの目玉は豪華なキャスティング。 下級マフィアのヒューベルト役には映画「バードケージ」などのネーサン・レーン。 名プロデューサーのジョン・ヘンリー役に「ラグタイム」のブライアン・ストローク・ミッチェル。 ティルダ役に「ライオンキング」のオリジナル・キャストでナラを演じたへザー・へドリー。 ヒューベルトの妻ケイ役に「シティー・オブ・エンジェルズ」でト二ー賞を受賞したランディー・グラフ。 

 これは已むを得ない事なのだが、今までこのアンコール・シリーズで上演された作品で良くあったのが、役者が台本を読みながら演じるため、どうしても作品に感情移入できず音楽のみを楽しむだけになってしまうという事。 しかし今回はこれらメイン・キャストの演技が素晴らしく、コンサートである事を忘れ、作品そのものを存分に楽しむことが出来た。 

 ネーサン・レーンはしばしアドリブも入り、四六時中笑わせてくれる。 彼自身も楽しみながら演じているのが伝わってきた。 ブライアン・ストローク・ミッチェルは力強く伸びのある歌声がよく、彼が今まで見せなかったプレイボーイな役を見事に演じた。 彼が愛について歌うソロ "I Know About Love" ではハンサムにエルビス・プレスリーを想わせる。 

 そして何よりもティルダ役ヘザー・へドリーが抜群に上手い。 この役が最初に歌う "Cry Like the Wind" というナンバーがある。 劇中ティルダが働いているレストランで彼女が口ずさんでいる鼻歌で、シンプルで美しいフォークソング。 これを聞いたヒューベルト(ネーサン・レーン)が歌手にならないかと彼女に話を持ち掛ける。  このナンバーでのへザー・へドリーの歌唱力が余りにも素晴らしく、この一曲でショース・トッパーになってしまう。 またブライアン・ストローク・ミッチェルと歌う "Fireworks" も二人の抜群の歌唱力がぶつかり合い聞き応えのあるナンバーになった。 へザー・へドリーの演技力、歌唱力は以前観劇したディズニーの「アイーダ」でも証明済みだったが、彼女が今回のような所謂古き良きミュージカル・コメディーも立派に演じられることに驚いた。 

 これまでにも幾つかの作品をこのアンコールで観てきたが、今回ほど完成度の高い舞台は初めてであった。 アンコール・シリーズはブロードウェイ作品とはみなされないのだが、今シーズン開幕したどのブロードウェイ・ミュージカルよりも楽しめたように思う。

観劇リストにもどる
トップにもどる