『プロデューサーズ』
St. James Theatre
今シーズン開幕する新作ミュージカルの中でも最も注目を浴びているのがこの『プロデューサーズ』。 今年1月にシカゴのキャデラック・パレス劇場で行われたトライアウト公演では全公演完売になるほどの好評を博した。 同じ劇場でトライアウトを行ったディズニーの『アイーダ』が満席の公演日がほとんどなかったということを考えればこの作品がいかに注目されているのかわかる。
このミュージカルの原作は喜劇の鬼才メル・ブルックス監督・脚本の同名の映画(1968年)で、彼の映画進出第一作目となった作品でもありアカデミー賞では脚本賞を受賞している。 日本での劇場公開は去年暮れに初めて行われたばかりなので記憶に残っている方も多いのではないか?
主役が演劇プロデューサーといった設定はミュージカルにピッタリの題材で、舞台化の話しがはじまったのは10年以上も前のこととなる。当初『クレージー・フォー・ユー』のマイク・オクレントが演出、スーザン・ストローマンが振り付けを手掛ける予定であった。 しかし1999年にマイク・オクレントが他界し、妻であり仕事のパートナーでもあるスーザン・ストローマンが演出も引き継ぐこととなった。
装置はロビン・ワグナー、そして衣装はウイリアム・アイヴィ・ロングで共に『クレージー・フォー・ユー』を手掛けている。脚本はメル・ブルックスと『アニー』の脚本家として知られるトーマス・ミーハンとの共作となる。
舞台の進行は原作となる映画に忠実だ。 幕が開くと現在『シカゴ』が上演されているシューベルト劇場の外見を再現した装置が組まれている。 落ちぶれたブロードウェイの演劇プロデューサーのマックスとその会計士レオが、ミュージカルの権利を売って損する前に収益を持ち逃げしようと企む。 わざと駄作を製作して打ち切りになれば、実際の製作費以外の金は全て自分達の懐に入れられるというわけだ。 そして選ばれた題材はナチスを賞賛したミュージカル『ヒトラーの春』。 そしてこの史上最低になるはずのミュージカルが上演されるが、ふたを開けてみると公演は絶賛され大成功を収める。 見事企みが失敗した、マックスとレオの二人は仲良く刑務所に入っていく。 そして出所した2人は刑務所の中で煮詰めた新たな作品を次々と上演して大成功を収めるのだった。
今回観劇してまず感じたのは、この物語が映画よりも舞台での方がより親近感が持てるということ。 メル・ブルックスによる脚本と音楽は非常に完成度が高く、客席から10秒以上笑いがおこらないことがない。
会計事務所で働くオがプロデューサーになるのを夢見て歌う "I Wanna Be A Producer" のステージングは『クレージー・フォー・ユー』でボビーがショウ・ビジネスの世界にあこがれ歌う "I Can't Be Bothered Now" の場面にそっくり。 大道具の中から出てくるコーラス・ガール、そして歌の終わりは曲が始まる前の場面に早変わりする所などでは特にそう感じた。 そして第ニ幕の"Spring Time For Hitler"の劇中劇のステージングもどことなく『クレージー・フォー・ユー』でのフィナーレに似ている。 確かに製作チームのほとんどが同じなのだから仕方のないことかもしれない。 舞台の完成度からすれば、曲の良さが目立った『クレージー・フォー・ユー』より脚本から音楽の全てにおいて楽しめる『プロデューサーズ』の方に軍配を上げたい。
ロビン・ワグナーによる装置は垂れ幕を多用し、華やかではないがスピーディーな場面転換が楽しめる。 また「ヒットラーの春」のクライマックスでは舞台奥に登場した鏡が客席側に傾き、俳優が集まって卍の形となるのが客席からも確認できるというのが凝っている。 勿論、この俳優が卍を作り出すのは映画版でも登場した演出で、これを舞台上で再現してしまうのには驚かされた。
スーザン・ストローマンによる振り付けは、これまで同様に道具を使ったアイディアたっぷりのダンスが楽しめる。 特に老婆達が四輪歩行車を使ってタップを踏む振り付けは面白い。
主役のネイサン・レーンの爆笑の演技は流石の出来だ。 相手役のマシュー・ブロドリックは『努力しないで出世する方法』でのフィンチ役での演技と同じだが、軽やかな動きが役に合っていた。 またゲイの演出家を演じるゲーリー・ビーチは特に素晴らしく、トニー賞の助演男優賞の有力候補ではないかと思う。
話しの内容の規模の小ささに比べ上演されているセント・ジェームズ劇場は大きすぎるのではないかと当初から言われていた。 しかし実際に舞台を観劇してみると、俳優のレベルの高さとスーザン・ストローマンの見事な演出により全く違和感を感じなかった。 今年のトニー賞はこの『プロデューサーズ』か、『フル・モンティ』の2作品にしぼられたように思う。