ANNA IN THE TROPICS
「アンナ・イン・トロピック」
11/16/03 初日 
上演時間/ 2時間15分

上演日・開演時間/ 火〜土 8:00  水・土 2:00  日 3:00  
Royale Theatre
242 W. 45th St.
Tel. 212-239-6200

 2003年度のピューリッツアー賞を受賞した戯曲。

 舞台は1929年のフロリダ、キューバからの入植者が家族運営している葉巻工場。 手作業で葉巻を生産している作業員たちに文学小説などを朗読する通称"レクター"が工場に雇われるところから幕が開く。 彼がトルストイの「アンナ・カレー二ナ」を朗読することにより、主人公アンナの情事に共感する女性たち、アンナを駆け落ちした先妻に照らし合わせ憎しみを露にする者、また愛を再認しあう夫婦、そしてそれらが引き金となる家族の葛藤が描かれていく。

 「レント」のミミ役で知られるダフネ・ルービン・ベガなど出演者の演技力には納得がいくが、工夫のない演出が退屈極まりないのは事実だ。

 チェーホフ作品が好きなら楽しめる余地もあるが、この作品に限っては"ピューリッツアー賞受賞"という肩書きこそが最大の見所である。

 




THE CARETAKER
「管理人」
11/9/03 初日 
上演時間/ 2時間45分(2回の休憩含む)
上演日・開演時間/ 火〜土 8:00  土・
日 2:00 
American Airlines Theatre
227 W. 42nd St.
Tel. 212-719-1300

 兄弟のもとへ身寄りのない老人が突然転がり込んでくることにより様々な問題があからさまになっていく、言わずと知れたハロルド・ピンターによる不条理劇の代表作。

  「スター・トレック」などで知られるパトリック・スチュアートも含め、3人の役者の演技には好感が持てる。 演出や美術も含め明らかに冒険を避け、わかり易く無難な舞台に仕上がっているのは、シーズンを通してのチケット購入者が多いランドアバウトならでは。

 同作品を知るための観劇なら勧めできる。

 




CAT ON A HOT TIN ROOF
「熱いトタン屋根の猫」
11/2/03 初日 
上演時間/ 2時間50分(2回の休憩含む)
上演日・開演時間
/ 火〜土 8:00  水・土 2:00  日 3:00
Music Box Theatre
239 W. 45th St.
Tel. 212-307-4100

 不治の病に侵された父の遺産をめぐり、それが引き金となる家族の葛藤を描いたテネシー・ウイリアムズの名作。  

 「ハイ・クライム」や「フリーダ」など映画界で知られるアッシュレイ・ジャッドの出演が最大の目玉だ。  

 装置デザインは久々のブロードウェイ作品となる「オペラ座の怪人」のマリア・ビヨルソン。 巨大な舞台空間をシンプルではあるが、美しく見事に埋めている。  

 出演者では、当主を演じるネッド・ベイティが群を抜いて素晴らしい。 ちなみに、彼は同役でローレンス・オリヴィエ賞にノミネートされている。 次男の妻マギーを演じるアッシュレイ・ジャッドは、容姿は言わずもがな、役に対する意気込みが体当たりの演技に伺える。 しかし、馴染まない南部訛りや大雑把なしぐさが役にそぐわないようにも思う。  

 曲折のないアンソニー・ペイジによる演出には好感が持て、作品の素晴らしさを再認できる舞台となっている。

 




HENRY IV
「ヘンリー四世」
11/20/03 初日
上演時間/ 3時間45分(2回の休憩を含む)
上演日・開演時間
/ 火〜土 7:00  
日 7:00
Vivian Beaumont Theatre
150 W. 65th St.
Tel. 212-239-6200

 リチャード二世の王位を剥奪したヘンリー四世の苦悩と貴族階級との対立、放蕩三昧を続ける皇太子ハルの成長と老騎士ファルスタッフの関係を描いたシェイクスピアによる代表的な史劇。  

 今回の上演では、本来2部構成の作品が、2回の休憩を含めた3時間45分の舞台に構成しなおされた。 わかり易く、そしてテンポも良く、さらに同史劇の魅力を余すところなく凝縮した退屈のない舞台である。

 装置は、木製の柱、梯子、城壁が中心となり、同劇場の立端を生かして組み合わされた"木の御殿"となっている。 多彩な仕掛けや動きで、各場面が絵画のように美しく、影を効果的に使った照明との相性もまた絶妙で、溜息が絶えない。   

 出演者の豪華さも今回の目玉で、ケヴィン・クライン、オードラ・マクドナルド、リチャード・イーストン、ダナ・アイヴィ、マイケル・ヘイデン、スティーブン・デローサと枚挙に暇がないが、特にファルスタッフに扮するケヴィン・クラインの座頭ぶりは見事である。  

 先シーズンの「ヘアスプレー」で大ヒットをとばしたジャック・オブライアンによる演出は丁寧かつ迅速で、近年まれに見る質の高いシェイクスピア劇に仕上がっている。

 




GOLDA'S BALCONY
「ゴルダズ・バルコニー」
10/15/03 初日
上演時間/ 2時間10分
上演日・開演時間
/ 火〜土 8:00  土 2:00、8:00
  日 3:00
Helen Hayes Theatre
240 W. 44th St.
Tel. 212-239-6200

 2003年にオフ・ブロードウェイで上演され、同年のドラマ・デスク賞で最優秀ソロ・パフォーマンス賞を受賞し、ブロードウェイに昇格した。  

 晩年のイスラエル元首相ゴルダ・メイヤーに名優トヴァ・フェルドシャーが挑む一人芝居である。 幼少期、イスラエルの建国宣言、メイヤー政権時の苦悩、また第5次中東戦争の先制攻撃に至る心境まで、フラッシュバックにより詳細に語られていく。

 トヴァ・フェルドシャーの演技には、首相にまで上り詰めた指導者としての崇高さはないが、活動家としての強さは十分に伺える。

 また、岩肌の切り立った巨大な装置は、一人芝居にはスケールが大きすぎるようにも感じるが、趣向をこらしたプロジェクターの使用により素晴らしい演出効果を生み出している。  

 中東の歴史に詳しくなければ、史書を紐解いてから観劇すればより楽しめるだろう。

 




I AM MY OWN WIFE

「アイ・アム・マイ・オウン・ワイフ」
12/3/03 初日
上演時間/ 2時間30分
上演日・開演時間
/ 火〜土 8:00  水・土 2:00  日 3:00
Lyceum Theatre
149 W. 45th St.
Tel. 212-239-6200

 同作品はオフ・ブロードウェイで絶賛され、ブロードウェイでの上演が決定した。  

 "シャルロッテ・フォン・マーシュドルフ"の名で知られる実在したドイツ人の服装倒錯者の生涯を追ったドキュメンタリー・タッチの戯曲。 彼に興味を持った作者自身によるインタビューや交換した手紙を基に書き起こされた作品で、劇中には作者自身も登場する。

 シャルロッテ・フォン・マーシュドルフ、そして原作者、また様々な役を一人で演じきるジェファソン・メイズの完璧な役作りは圧巻だ。

 幼少期、父親の殺害、大戦下での迫害、同性愛者の支援活動、東ドイツでの弾圧、そして2002年に亡くなるまでが目まぐるしく紹介される。 彼がグリュンダー・ツアイト期の家具をこよなく愛し、博物館まで開いたことは有名で、その事柄は同作品シンボルとして取り上げられた。 シンプルな舞台装置の奥に積み上げられた数々の家具が効果的に照らし出される。

 伝記を読んでいるかと感じるほど単純にシャルロッテ・フォン・マーシュドルフの生涯を追った作品で、作者が彼に興味を示した経緯などには踏み込まれない。 そして、完成度の高さはジェファソン・メイズの演技に依存するものが多いが、少なくとも今までにない手法で人物を描写していく作品として注目に値する。

 




THE RETREAT FROM MOSCOW

「レトリート・フロム・モスコウ」
(モスクワからの脱却)

10/23/03 初日
上演時間/ 2時間15分
上演日・開演時間
/ 火〜土 8:00  水・土 2:00   日 3:00
Booth Theatre
222 W. 45th St.
Tel. 212-239-6200

 当初、アンソニー・ホプキンズが出演するとの報が流れ話題となったが、結局「成功の甘き香り」でトニー賞を受賞したジョン・リスゴーにおさまった。  

 不満の多い結婚生活に息苦しさを感じた夫が愛人とともに暮らすため、長年連れ添った妻に離縁を持ちかける。 一人息子が仲介に入るものの、やり直すことを望む妻をよそに、二人は別々の道を歩むことを決意する。  

 「乗車する電車を間違えた」と結婚を後悔する晩年の夫を演じるジョン・リスゴー、そして離婚成立後も夫へ未練が残り、それが次第に絶望や憎しみへとなる心境の変化を巧みに描写するジェイン・アトキンソンの演技は見事である。  

 親子の関係を説いた息子のモノローグ(独白)など、聴き応えのある台詞には好感が持てるが、夫婦の離縁が家庭崩壊につながるという筋がマンネリ化しているためか、新鮮さを感じないのは残念だ。

 




SIX DANCE LESSONS IN SIX WEEK

「シックス・ダンスレッスン・イン・シックス・ウィーク」
10/29/03 初日
上演時間/ 2時間00分
上演日・開演時間
/ 火 7:00  水〜土 8:00  水・土 2:00  日 3:00
Belasco Theatre
111 W. 44th St.
Tel. 212-239-6200

 フロリダにある海辺のアパートに一人暮らしをする72歳の未亡人が、自宅でダンスの個人レッスンを受ける。 計6回、6週間にわたるレッスンの講師は同性愛者で毒舌の男性。 最初は互いの身分を偽り、うまくかみ合わない2人だが、次第に打ち解け、信頼関係が生まれていく。

 出演者は、映画「スター・ウォーズ」のルーク・スカイウォーカー役が最も有名なマーク・ハミル、そして映画界や演劇界のベテラン、ポリー・バーゲンの2人。

 心地よく微笑ましい内容の戯曲だが、その平淡さが結果的に感銘を与えない。 未亡人が不治の病に侵されているという事柄などが終盤に次々と明かされるなど、まるで情感を誘うかのような軽薄な筋立てにも問題があるのかもしれない。

 こじんまりとした装置は内装が現実的なのに対し、中央に位置する巨大な窓から見える電光写真のような海の眺めが余りにも貧弱で不釣合いだ。 さらに、この窓からの景色が全7場の各場面において、夕焼や夜景などに変化するのだが、これが少々侘くも感じられる。

 この舞台は、ポリー・バーゲンの情があり繊細な演技によって、辛うじて成立しているように思われる。

   


 



TAKE ME OUT

「テイク・ミー・アウト」
2/27/03 初日
上演時間/ 2時間30分
上演日・開演時間
/ 火〜土 8:00  水・土 2:00  日 3:00
Walter Kerr Theatre
219 W. 48th St.
Tel. 212-239-6200

 同作品は2003年度のトニー賞で最優秀作品賞を受賞した。

  メジャーリーグの実力派バッターが同性愛者であることを告白したことからチームが崩壊の危機にさらされるという、ストレートプレイとしては珍しい球界を舞台にした作品。 2002年にロンドンで初演され、その後ニューヨークの小劇場での上演を経て、ブロードウェイで開幕した。

 開幕以前から、出演者全員が全裸でシャワーを浴びる場面など、話題に上っていた作品ではあるが、好意的ではないメディアの劇評もあり集客が難しく、何度となく閉幕が囁かれた。しかしトニー賞の受賞が転機となり現在もロングランを続けている。

   




THE VIOLET HOUR

「ヴァイオレット・アワー」
11/6/03 初日
上演時間/ 2時間00分 
上演日・開演時間/ 火〜土 8:00  土・日 2:00  日 7:00

Biltmore Theatre
261 W. 47th St.
Tel. 212-399-3030

 稽古期間中やプレビュー期間中にキャスト降板が度々あったが、無事開幕にこぎつけた。 もちろん、マンハッタン・シアター・クラブ(MTC)がブロードウェイで運営することとなった新装ビルトモア劇場のこけら落し公演というのも話題の一つ。  

 舞台は第一次世界大戦直後、1919年のニューヨーク。 創立間もない出版社の社長が最初の発行書籍を、自分の愛人の自伝にするか、それとも親友の力作にするか迷っているところから始まる。 そこへ、未来の出来事を刷り出す印刷機が届き、両作品の出版が原因となる絶望的な未来の出来事を刷りはじめるという、SFの要素を兼ね備えた物語だ。 

 2003年のトニー賞で最優秀作品賞を受賞した「テイク・ミー・アウト」のリチャード・グリーンバーグによる新作戯曲として期待は高まるが、残念ながら納得のいく完成度ではない。

 余りにも現実離れした物語に問題があるというより、作家、製作陣、俳優の間で意見の食い違いがあったのが明らかな纏まりのない舞台である。

 遠近法を活用した出版社のオフィスの装置は見応えがあり、また俳優も無難に役をこなしている。 出演者の降板など製作期間中のトラブルが、総体的な作品の優劣に影響を与えたのかもしれない。

 



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